普門軒の禅寺日記・京都の宿坊・お寺に泊まる

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李登輝元総統「日本の教育と私」・・・誠意ある実践こそ日本精神

武士道とはかつて日本人の道徳体系でした。封建時代には武士が守るべきことを要求されたもの、もしくは教えられたものです。

それは成文法ではない、精々、口伝による、もしくは数人の武士、もしくは学者の筆によって伝えられた僅かの格言があるに過ぎず、むしろそれは語られず、書かれざる掟、心の肉碑に録されたる律法たることが多いのです。不言不文であるだけ、実行によって一層強い効力が認められているのです。

それはいかに有能なりといえども1人の人の頭脳の創造ではなく、またいかに著名なりといえども1人の人物の生涯に基礎するものではなく、数十年、数百年にわたる武士の生活の有機的発達でありました。それがやがては日本人の行動基準となり、生きるための哲学にもなりました。

具体的には、武士道精神は公の心・秩序・名誉・勇気・いさぎよさ・惻隠の情・躬行(きゅうこう)実践を内容にしつつ、日本人の精神として生活の中に深く浸透していったのです。

日本精神について、台湾嘉南大土☆、烏山頭水庫(ダム)を建設した八田與一氏を例として述べましょう。

嘉南大☆の灌漑面積は15万ヘクタール、烏山頭ダムの水源建設総工事費は400万円、当時の台湾総督府の年間予算に匹敵する大工事でした。工事期間は10年、32歳の若さでこの巨大工事を成し遂げた八田氏は、この工事でソーシャルジャスティスを実践、日本人精神を発揮しました。

烏山頭ダムと濁水渓から取り入れた水は合計1億5000万トン。しかし、これでは15万ヘクタール全域に給水することは不可能でした。

八田氏は普通の土木工事の技術者と違い、『ダムと水路を完成すればそれで終わりである!』とは考えませんでした。彼は農民のためにダムや水路を造るのであれば、何とかして農民にあまねく水の恩恵を与え、生産が共に増え、生活の向上があって初めて工事の成功であると考えました。彼はこのために、三年輪作という耕作方法を考え、水をすべての農民に行きわたる方法を講じました。

嘉南大☆の工事で134人もの人が犠牲となりました。完成後に殉工碑が建てられ、その碑には全員の名前が台湾人、日本人の区別なく刻まれていました。

関東大震災の影響で予算が大幅に削られ、従業員を退職させる必要に迫られたことがありました。その時、八田氏は幹部の『優秀な者を退職させると工事に支障が出るので、退職させないでほしい』という言い分に対し、『大きな工事では優秀な少数の者より、平凡な多数の者が仕事をなす。優秀な者は再就職が簡単にできるが、そうでない者は失業してしまい、生活できなくなるのではないか!』といって、優秀な者から解雇しています。

八田夫婦が今も台湾の人々によって尊敬されるのは、義を重んじ、誠をもって率先垂範、実践躬行する日本的精神が脈々と存在しているからです。八田夫婦の例を挙げて、私がここで皆さんに申し上げたい事は、日本精神の良さは、口先だけではなく、実際に行う、誠実をもって行うというところにこそあるのだということです。【2006年9月18日付・産経新聞に掲載】
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by fumonken | 2014-11-12 08:09 | 日課抄・歳時記 | Comments(0)